ライフラーニングセンター:コラム

第200回 村上理奈 エッセイ

2009.8. 6

■ 今週の素敵な言葉


『私の中に深く埋もれていた何かを呼び覚ました。』
          
                                  デザイナー 三宅一生さん


先日、世界で活躍するデザイナー、三宅一生さん(71歳)が
ニューヨーク・タイムズ紙に「被爆体験」について寄稿したニュースは、
皆さんの記憶に新しいところだと思います。


三宅さんは、自らの被爆体験について、これまで多くを語ってこなかったのですが、
オバマ氏が「核兵器のない世界」を訴えた4月のプラハでの演説に触発された、
とおっしゃられています。


寄稿によると、三宅さんは広島に住んでいた7歳の時に原爆を体験します。
しかし、三宅さんはこれまで被爆体験については、ほとんど語ってきませんでした。


「原爆を経験したデザイナー」といったレッテルを張られるのにずっと抵抗があった、
というのがその理由です。
原爆について尋ねられることも不快だったし、忘れようと試みたこともあった、
とのことです。


そんな三宅さんが目指したのは、
「破壊されてしまうものではなく、創造的で、美しさや喜びをもたらすもの」。
それを考え続けた末、衣服デザインを志向するようになったのです。


先日、オバマ氏が「プラハ演説」で核廃絶について言及しましたが、
そのことが三宅さんの心の奥深くに響き、心境の変化を起こしました。


デザイナーとして世界中で活躍してきた三宅さんが、
71歳になって感じること、現代の社会を見て思うことというのは、
どのような未来への想いなのでしょうか・・・。


オバマ氏が広島を訪れれば、
「核の脅威のない世界への、現実的でシンボリックな第一歩になる」
という三宅さんの考えに、私も強く共感します。


今日は8月6日、
広島原爆の日です。


この地球上で初めて原爆が投下された日に、
「平和」について少しでも想いをめぐらせてみることは、
全人類にとってますます大切になってきているのではないでしょうか。

                            ライフラーニングセンター 村上理奈

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ここに、三宅さんの投稿の全文の訳を掲載します。

「閃光の記憶」

本年4月、オバマ米大統領がプラハで行った演説のなかで、核兵器のない世界を目指すと約束されたことは、私が心の奥深くに埋もれさせていたもの、今日に至るまで自ら語ろうとはしてこなかったものを、突き動かしました。


大統領の演説は、私も「閃光」を経験した一人として発言すべきであるということ、自身の道義的な責任ということを、かつてなく重く受け止めるきっかけとなりました。


1945年8月6日、私の故郷の広島に原爆が投下されました。当時、私は7歳。目を閉じれば今も、想像を絶する光景が浮かびます。炸裂した真っ赤な光、直後にわき上がった黒い雲、逃げまどう人々・・・。すべて覚えています。母はそれから3年もたたないうち、被爆の影響で亡くなりました。


私はこれまで、その日のことをあえて自分から話そうとはしてきませんでした。むしろ、それは後ろへ追いやり、壊すのではなくつくることへ、美や喜びを喚起してくれるものへ、目を向けようとしてきました。衣服デザインの道を志すようになったのも、この経験があったからかもしれません。デザインはモダンで、人々に希望と喜びを届けるものだからです。


服づくりのしごとを始めてからも、「原爆を経験したデザイナー」と安易にくくられてしまうことを避けようと、広島について聞かれることにはずっと抵抗がありました。


しかし今こそ、核兵器廃絶への声を一つに集める時だと思います。広島市内では現在、8月6日の平和祈念式へオバマ大統領をご招待したいという市民たちの声が高まっています。私もその日が来るのを心から願っています。


それは、過去にこだわっているからではありません。そうではなく、未来の核戦争の芽を摘むことが大統領の目標である、と世界中に伝えるには、それが、最上の方策と思うからです。

 
先週、ロシアと米国が核兵器の削減で合意しました。非常に重要なひとつのステップです。ただ、楽観してばかりもいられません。一個人の力、一国の力だけでは核戦争を止めることは不可能です。他にも、核のテクノロジーを手に入れている国々があると聞いています。世界中の人々が声をあげて、平和への望みを表明しなければなりません。


オバマ大統領が、広島の平和大橋(彫刻家イサム・ノグチが自身の東西のきずなへの証しとして、さらに人類が憎しみから行ったことを忘れないための証しとして、デザインした橋)を渡る時、それは核の脅威のない世界への、現実的でシンボリックな第一歩となることでしょう。そこから踏み出されるすべての歩みが、世界平和への着実な一歩となっていくと信じています。

                   7月14日付の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿文
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